IR2110の独り言

ゲートドライバーICが独り言をつぶやくだけです

弊学教授作のVVVF波形を評価してみた

弊学の廊下を歩いていると…
おや!なにやら怪しいものが…!(図1)

図1 怪しいポスター

これは見るからにインバータの波形…!!!

上に電圧形2レベル三相インバータの回路が書いてあるので、三相インバータ関連の波形でしょうか?
どうやらこのポスター、話によるとワイの担任が作ったそうです。研究室前に貼ってありました。なんで作ったのかは真意は謎ですが、いろいろ気になるので、ちょいと解析をかけてみましょう。

ゆる〜く解析していく!

スイッチング角度の読み取り

同期PWMとして解析を行います。まず図2の要領で図1のスイッチング角度を読み取ります。

図2 スイッチング角度の読み取り

同期PWMの波形は対称なので、 1/4周期分を読み取れば良いのです。写真のピクセル数から角度を読み取っていくと、以下の表1のように読み取ることができました。なお写真の傾きについては補正をかけていません。…どうせそんな変わらんやろ!

表1 スイッチング角度

番号 角度 [deg]
 \alpha_{1} 8.48
 \alpha_{2} 12.5
 \alpha_{3} 17.7
 \alpha_{4} 24.7
 \alpha_{5} 29.5
 \alpha_{6} 37.3
 \alpha_{7} 43.5
 \alpha_{8} 55.0
 \alpha_{9} 60.9
 \alpha_{10} 75.6
 \alpha_{11} 81.2

基本波振幅の導出

図2の波形をフーリエ級数展開をするときの要領で図1の波形が連続するとしてフーリエ級数展開を適用すると、 n次高調波の振幅 H(n)は(eq.1)になります。(母線電圧=1として正規化しています。)

 H(n) = \dfrac{4}{n} \{ \cos n\alpha_{1} - \cos n\alpha_{2}

 + \cos n\alpha_{3}... \cos n\alpha_{11} \} \tag{eq.1}

(eq.1)から、図1の波形の基本波振幅H(1)=0.858となり、1パルスモードの基本波振幅 4/\pi 100\%として正規化すると、 67.4\%となります。

なお、写真には基本波らしき正弦波が一緒に描かれていて、これの振幅をピクセル数から読み取ると、 0.622となり、H(1)=0.858と比べると、 38\%近くの誤差があることがわかります。

H(1)=0.858というのを踏まえて基本波の正弦波を赤線で描くと、図3のようになります。

図3 正しい基本波

また、3倍調波が0ではないことから、PWM波形は3レベルインバータの相電圧であることがわかります。2レベルインバータの線間電圧には3倍調波は含まれないはずだからです。

上に描いてある回路は2レベルだということを考慮すると、2レベルインバータの線間電圧のつもりで描いたのでしょうか。

THDの導出

電流THD I_{THD}は、電動機一相あたり実効漏れインダクタンスを 1、基本波角周波数を 1とすると、(eq.2)となります。

 I_{THD}=\sqrt{\dfrac{1}{2}\displaystyle\sum_{n=2}^{∞}\left( \dfrac{H(n)}{n}\right) ^2} / H(1) \tag{eq.2}

図1の波形は対称なので、 2n次高調波は除いて考えると、 I_{THD}=0.0765となります。また、線間電圧を考えると、 3n次高調波は除去されるので I_{THD}=0.0386となります。これが小さいほど、よいPWM波形だと言えます。

ベクトル軌跡の導出

電圧を時間積分して電流0時の磁束の軌跡っぽいものを出してみます。図4のようになりました。

図4 磁束の軌跡っぽいもの

理想ではこの形は円になります。円形に近いほど、リプルが少ないと言えます。

サブハーモニック法と比較

一般的なサブハーモニック法のPWM波形と比べてみましょう。21パルスモードでH(1)=0.858の相電圧の波形は図4のようになります。角度の数は11角度で図1とちゃんと一緒です。

図5 21パルスモードの相電圧

THDを出してみましょう。まず、図5の波形(相電圧)は I_{THD}=0.0264となり、線間電圧を考えると、 3n次高調波は除去されるので I_{THD}=0.0102となります。

これは、先ほど導出した I_{THD}より数倍小さいです。つまり、図1の波形は、一般的なサブハーモニック法よりはるかに劣っているPWM波形だと言えます。

磁束の軌跡っぽい形も比べてみましょう。図6にそれぞれの磁束の軌跡っぽい形を示します。左側が先ほど導出した図1の磁束の軌跡っぽいもの、右側が21パルスモードの磁束の軌跡っぽいものです

図6 磁束の軌跡っぽいものの比較

図6からも図1の波形が一般的なサブハーモニック法に比べてはるかに劣っているPWM波形だということが分かります。

なるべく同等な評価結果となるようなパルス数を求めると、9パルス(キャリア反転、4角度)の I_{THD}=0.027438となりました。(これでも1歩及ばず…)つまり、図1の波形は 1/2 1/3以下のスイッチング周波数のサブハーモニック法と同等くらいの品質なのです。例えるならば、「人一倍以上努力しないと1人前になれない」みたいなことです。

まとめ

図1の波形は、以下のような素晴らしい特徴があります。

  1. 11角度
  2. 基本波振幅が 38\%くらい違う
  3. 2レベルインバータの線間電圧のつもり
  4. 3レベルインバータの相電圧
  5. 人一倍以上努力しないと1人前になれない

今後の活躍に期待です。